170910 少年事件と共同幻想

Category : 宮崎哲弥の時々砲弾
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宮崎哲弥の時々砲弾

 少年事件と共同幻想


メディアが客観的、マクロ的なデータに基づかないアドホックな感情論を垂れ流して、国民の社会認識や世論形成を著しく歪めてしまう弊については既に何度も警告してきた。

しかし一向に改まらない。

その最たるものが少年犯罪に関する報道で、相変わらず犯罪統計の巨視的動向を無視し、個別の凶悪犯の特異性を一般化して、「体感治安」をいたずらに悪化させることに”貢献”している。



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先頃(2015年9月19日)、内閣府が「少年非行に関する世論調査」報告書を発表した。

調査の実施時期は今年の7月。

前回の調査は2010年11月に施行されているから、この二つのデータを比較すると、ここ5年間の世論の変化が看て取れるわけだ。

報告書によれば「実感として、おおむね5年前と比べて、少年による重大な事件が増えていると思うか」と尋ねたところ、「増えている」と答えた者の比率が78.6%だったという。

これは「かなり増えている」と回答した割合(42.3%)と「ある程度増えている」と回答した割合(36.3%)を足し合わせた数字だ。

大多数の人々が少年による重大自販が増加していると思い做していることがわかる。



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しかも前回調査の同じ質問の回答と比べて3ポイントも増加している。

念の為に断っておくが、これはあくまで”少年凶悪犯が増えていると思っている人の数が増えている”というデータであって、少年犯罪自体が増悪していることを示すデータではない。

では、人々の”体感”ではなく、実態を概観してみよう。

今年に入って、世間の耳目を引く少年による殺人事件が相次いだ。

とくに1月27日に名古屋大学に通う19歳の女子学生が老婆殺害の容疑で逮捕された事案は、その動機として語ったと伝えられる「人を殺してみたかった」というセリフとともに良民を聳動しょうどうした。

犯行時は旧臘きゅうろうだが、一般には「今年の事件」と認知されている。

2014年には、長崎県佐世保市で当時15歳の女子高校生が同級生に突如襲い掛かり、殺害して遺体を損壊した事件が起こった。



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半年を経ないうちに少女による猟奇的殺人が相次いだため、そこに通底する”何か”を見出そうとする人の性向は、あるいは自然な反応かもしれない。

だが犯罪研究の見地からは、この二つの事案はまったく孤発的なものであり、それぞれの犯罪に共通する社会的な要因はない、といえる。

同タイプの凶悪犯罪は洋の東西を問わず一定の確率で起こっているし、日本でも大昔から繰り返されてきた(管賀江留郎『戦前の少年犯罪』築地書館)。

こういう凶行を一般予防的な社会制御によって抑止するのは極めて困難であり、とりあえず神経精神病理学や行動遺伝学などの進展を俟つ他ないだろう。



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では少年犯罪一般はどうだろうか。

警察庁生活安全局少年課が出している最新の「少年非行情勢(平成27年上半期)」によれば刑法犯少年の検挙人員は13年連続で減少している。

こういうデータを示すと必ず「少子化によって年少者の人口が減っているのだから、全体の検挙人員数が減るのは当然だ。年少人口に対する年少検挙者数の比率を見れば、むしろ増加しているはずだ」などと半畳を打つ輩がいるが、人口比の推移をみても11年連続で減少しているのだ。

凶悪犯に注目しても今年上半期の検挙人員は275人。

9年前の2006年上半期が626人で半分以下になっている。

2010年上半期でも355人だから「この5年で少年による重大な事件が増えた」という約8割の人々の”体感”はメディア等に影響された共同幻想なのである。



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世間のバイアスを匡正しようとせず、自分でデータを確かめもせず、「若者が生命の尊さを軽視するようになった」だの、「他を思いやる気持ちが失われた」だのとコメントしている「専門家」は有害無益としか言いようがない。



2015/10/15の週刊文春から







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